外郎売 別バージョン


ちなみに、僕が初めて覚えたバージョンは以下の「外郎売」。初めて通った養成所で、1989年、20歳のときに習ったものです。

今と違うところは、

すこやかに成りて→すこやかに成って
しんのけいちょう→くちびるのけいちょう
つみざんしょう→つみさんしょう
しゅちん→しゅっちん
ちょっと先→いっすん先
誰が長薙刀ぞ→誰がなげしの長薙刀ぞ
こぼうし→こぼし
いばらきどうじ→いばらぎどうじ
きせんくんじゅ→きせんぐんじゅ

左が今現在の自分流の読み方です。

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 拙者親方と申すは、御立の中に、御存知のお方もござりましょうが、お江戸を立って二十里上方、相州小田原、一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪いたして円斎と名のりまする。元朝より大晦日まで、お手に入れまする此の薬は、昔、ちんの国の唐人、外郎という人、わが朝へ来たり、帝へ参内の折から、此の薬を深く籠め置き、用ゆる時は一粒づつ、冠のすき間より取出す、依ってその名を、帝より「頂透香」と賜る。即ち文字には、「いただき、すく、におい」と書いて「とうちんこう」と申す。 只今は此の薬、殊の外、世上に弘まり、ほうぼうに偽看板を出し、イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと、色々に申せども、平仮名を以って「ういろう」 と記せしは親方円斎ばかり、もしやお立合いの内に、熱海か、塔の沢へ湯治にお出なさるか、又は、伊勢御参宮の折からは、必ず門ちがいなされまするな。お登りならば右の方お下りならば左側、八方が八棟、おもてが三つ棟玉堂造り、破風には菊に桐のとうの御紋をご赦免あって、系図正しき薬でござる。イヤ最前より 家名の自慢ばかり申しても、ご存知ない方には、正身の胡椒の丸呑、白河夜船、さらば一粒たべかけて、その気見合いをお目にかけましょう。
 先づ此の薬を、かように一粒舌の上にのせまして、腹内へ納めますると、イヤどうも言えぬは、胃、心、肺、肝がすこやかに成って、薫風喉より来り、口中微涼を生ずるが如し、魚鳥、きのこ、麺類の喰合せ、その外、万病速効あること神の如し。
 さて、この薬、第一の奇妙には、舌のまわることが、銭独楽がはだしで逃げる、ひよっと舌がまわり出すと、矢も楯もたまらぬじゃ。そりゃそりゃそらそりゃ、まわってきたわ、廻ってくるは、アワヤ喉、サタラナ舌に、カ牙サ歯音、ハマの二つは唇(くちびる)の軽重、開合さわやかに、アカサタナハマヤラワオ コソトノホモヨロヲ、一つへぎへぎに、へぎほし薑、盆まめ、盆米、盆ごぼう、摘蓼、つみ豆、つみ山椒(さんしょう)、書写山の社僧正、粉米のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米の粉なまがみ、儒子、非儒子、儒子、儒珍(しゅっちん)、親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親かへい子かへい、子かへい親かへい、古栗の木の古切口、雨がっぱか、番合羽か、貴様のきゃはんも皮脚袢、我等がきゃはんも皮脚袢、しつかは袴のしっぽころびを、三針はりながにちよと縫うて、ぬうてちょとぶんだせ、かはら撫子、野石竹、のら如来、のら如来、三のら如来に六のら如来、一寸(いっすん)先のお小仏に、おけつまづきやるな、細溝(ほそみ ぞ)にどじょにょろり、京の生鱈、奈良なま学鰹、ちょと四五貫目、お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃつと立ちょ茶立ちょ、青竹茶煎で、お茶ちゃと立ちゃ。 来るは来るは、何が来る。高野の山のおこけら小僧、狸百匹、箸百ぜん、天目百ぱい、棒八百本、武具、馬具、武具、馬具、三ぶぐばぐ、合せて武具馬具六武具 馬具、菊、栗、菊栗、三菊栗、合せて菊栗、六菊栗、麦ごみ麦ごみ三麦ごみ、合せて麦ごみ六麦ごみ、あのなげしの長なぎなたは、誰がなげしの長薙刀ぞ、向う のごまがらは、荏の胡麻がらか、真胡麻がらか、あれこそほんの真胡麻がら、がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきゃがれ小法師(こぼし)、ゆんべ もこぼして、またこぼした、たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、たっぽたっぽ一丁だこ、落ちたら煮てくを、煮ても焼いても喰われぬ ものは、五徳、鉄きゅう、かな熊どうじに、石熊、石持、虎熊、虎きす、中にも、東寺の羅生門には茨木童子がうで栗五合つかんでおむしゃる、かの頼光のひざ 元去らず、鮒、きんかん、椎茸、定めてごたんな、そば切り、そうめん、うどんか、愚鈍な小新発知、小棚の、小下の小桶に、小味噌が、こ有るぞ、こ杓子、こもって、こすくって、こよこせ、おっと、がってんだ、心得たんぼの、川崎、神奈川、保土ヶ谷、戸塚を、走って行けば、やいとを摺りむく、三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯がしや、小磯の宿を、七つおきして、早天そうそう、相州小田原とうちんこう、隠れござらぬ貴賤群衆の、花のお江戸の花ういろう、あれあの花 を見て、お心を、おやはらぎやという、産子、這う子に至るまで、此のうゐろうのご評判、ご存知ないとは申されまいまいつぶり、角だせ、棒だせ、ぼうぼうまゆに、うす、杵、すりばちばちばちぐゎらぐゎらぐゎらと、羽目をはずして今日お出での何茂様に、上げねばならぬ、売らねばならぬと、息せい引っぱり、東方世界の薬の元締、薬師如来も照覧あれと、ホホ敬って、ういろうは、いらっしゃりませぬか。