オレはグレートマジンガー! 3

辰巳出版70年代TVアニメ検証第二弾「オレはグレートマジンガー!」掲載
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幼年層に受け入れてもらうための策略
               神辺宏樹

 ご存じの通り、『グレートマジンガー』は『マジンガーZ』(永井豪映像化作品第3弾)の続編にあたるものである。当時は「アニメーション=子供向け番組」という図式だったため、ターゲットである視聴者は自然と子供ということになる。番組の人気を得るためには、多くの子供に支持されなければならないという宿命を背負っていたのだ。
 『マジンガーZ』や『グレートマジンガー』の放映当時、子供向け番組のヒーローものというのは、『ウルトラマン』の怪獣ブーム、『仮面ライダー』の変身ブームに代表される実写特撮が人気の中心で、アニメーションのヒーローものは、どちらかと言えば日陰の存在だった。アニメーション番組優位の現在とは、全く逆の時代だったのである。
 特撮ヒーローものの主人公はほとんどが変身ヒーローで、等身大ヒーローの場合は世界征服を企む悪の結社、巨大ヒーローの場合は怪獣が敵であることが多い。世界征服の第一歩として、日本の極めて狭いある地域を舞台にし、時代性も現実世界と遜色がなく、とにかく子供向け番組 ということを極力意識して、「ヒーローが子供を守る」というテーゼで描かれている。ところがアニメーションはと言えば、 絵で表現できる限りの壮大なスケールのもと、未来の地球などという広い範囲を舞台に、宇宙人による緑の星・地球侵略の魔の手から「ヒーローが地球人類を守る」というテーゼで描かれているものが多い。特撮番組は限りなく現実的であり、アニメーション番組は、限りなく夢の世界=非現実的なのである。自分の周囲と同じような景色が映り、自分と近い年格好の子供が危機に陥り、ヒーロー・ヒロインが助けに来てくれる。そんな特撮番組のリアルな情景の方が、視聴者であ る子供たちの胸を躍らせたのは至極 当然と言うものだろう。
 ところが、そのような実写特撮が優位の時代に、『マジンガーZ』『グレートマジンガー』 は、テレビ番組史上かつてない 金字塔をうちたてたのだ。

●兜シロー

 ヒーローものの基本は「勧善懲悪」。正義の味方が悪い敵をやっつける姿に、その醍醐味がある。ヒーローものの主人公は、二十歳前後の格好良いキャラクターが多い。視聴者である子供たちは、その自分より年上のキャラクターが活躍する 姿に憧れ、そのキャラクターの真似 をしようとしたり、言うことを聞いたりする。ヒーローものの主人公という存在は、それだけ子供たちに影響力があるのだ。 『グレートマジンガー』の主人公・剣鉄也もその1人だが、『グレートマジンガー』では、なぜか兜シローの動向にも目が行ってしまう。
 シローは幼い頃に、祖父の実験による爆発で両親を亡くし、祖父・十蔵、兄・甲児の手で育った。そのため、父親・母親という存在に、強い憧れの念を抱いていることは容易に想像できる。十蔵と甲児の育て方が良かったのか、シローは明るく優しい性格で、クラスでも人気者のよう だ。だが、祖父がドクターヘル率いる地下帝国の手によって命を落としたため、シローの肉親は、兄・甲児しかいなくなってしまった。考えてみると、まだ子供だというのに、かなり悲しい経験をしている。
 シローは前作である『マジンガーZ』の主人公・兜甲児の弟であり、『グレートマジンガー』ではボスたち同様、前作の 『マジンガーZ』から引き続いてのレギュラー出演。『マジンガーZ』『グレートマジンガー』を通して、唯一の子供キャラクターである。『マジンガーZ』で は東城学園初等部の5年生(11歳)という設定だったが、『グレートマジンガー』では詳しく触れられていない。第2話で 城南学園に転入してきたことから、小学校の高学年(5年生か6年生)ということは推察できる。
 『グレートマジンガー』では、ただ1人の肉親である兄・甲児が、弓さやかとアメリカに留学したため、シローは光子力研 究所の弓博士のもとで生活していた。しかし、同じく親のいない境遇であるジュンの提案と鉄也の賛同により、第2話から科学要塞研究所で生活をするようになる。科学要塞研究所の所長・兜剣造は、幼い頃に亡くなったはずの実の父親。しかし剣造は、祖父・十蔵の手によりサイボー グとして甦った存在のため、幼いシローに与える衝撃を思うと、なかなか真実を告げることができない。そのため第26話までは、剣造の心の葛藤としてでしか、親子という事実は描かれていない。父親と告白された第26話以後は、義理の親子から本当の親子という関係になるのだが、ミケーネ帝国との戦いによる多 忙のせいで、触れ合いの時間が普通の親子ほど取れない。そのことに、シローは大いに不満のようなのだ。
 そんな一番年下のキャラクターであるシローを中心に『グレートマジンガー』では人間関係が築かれ、多くの回でシローを基点に話が展開されているように思えてならない。兜剣造が父親としての告白をする以前と以後との剣鉄也、炎ジュン、兜剣造。兄・兜甲児の親友であるボスと その仲間。科学要塞研究所の研究員たち。シローの学校での交遊関係。限定された回にしか登場しないキャラクターなど、メ イン、サブ、ゲストというほとんど のキャラクターとあらゆる面でシローは絡んでいる。人質として事件に巻き込まれたり、トラブルメーカーとして事件を引き 起こしたりしながら、ストーリーの導入役や展開役をつとめたりしているように感じられるのだ。

●番組における疑似体験

 テレビ番組の楽しみ方には、ヒーローに憧れていろいろなことを空想するという他に、登 場キャラクターを友達に見立てたり、そのキャラクターに自分自身を投影したりして番組の中に入り込み、疑似体験をするということも考えられる。そ の場合、自分と年齢が比較的近い キャラクターの方が感情移入しやすいはずである。
 『グレートマジンガー』の登場キャラクターで、子供たちの年齢に一番近い存在はシローである。『グレートマジンガー』 全56本中、シローがストーリーの構成上、かなりの比重を占める回が30本ある。その中でメイン、またはキーポイントと考えられる回が9本(第5、11、 13、26、28、43、44、49、50話)。多くが、幼い時分に親がいないという寂しさから派生する、シローの感情 を扱っている。
 剣造を父親と知らない前半では、たった1人の肉親である兄・甲児のアメリカ留学により、 身近に身内がいない寂しさを。 そして剣造を父親と知ってからの後半では、剣造の仕事の多忙により、親子のコミュニケーションが取れない寂しさが主に描 かれている。こういった、弱い存在である子供の心の隙間に入り込む寂しさ=孤独感から生じる不安感によって、シローは自分に注意を向けさせたり、一人前と 認めてもらうために、わがままを言ったり、意固地になったり、勝手な行動をとったりする。そして、それらのシローの甘い考えから放たれる言動によって事件が引き起こされる。図式的に考え ると、シローは作品のトラブルメーカーとして存在していると言える。併せて、周りに迷惑をかけた代償に、父・剣造の愛に よって諭されたり、周りの人の意見 を聞いたり、自らの経験によって気付いたりして、一歩一歩、立派な大人へと成長していくという、ある種、情操教育的側面 を持っている。ジュンに諭され、少し男らしくなった第5話、父親替わりに授業参観に来てくれなかった剣造に悪態をつく第13話、所長が実の父・剣造と明かされた第26話、火山島壊滅作戦に、ボスと一緒に無断で出撃した第28話、担任の森山優子に母親の面影を重ねる第50話などである。
 いずれも子供特有な面を扱っているため、視聴者である子供たちは、違和感無くシローの気 持ちを理解していたのではないかと思われる。シローの言動を、単なる日常的なものとしてとらえ、自分と近い存在として認識することによりシローに感情移入し、番組に引き込まれたのではないだろうか。シローを反面教師として、より高次の段階へと成長する子供もいただろう。しかし、シローの気持ちを理解で きるあまり、シローの言動によって 引き起こされた因果関係において、いたたまれないほどのジレンマを感じたり、番組中の事件を自分が引き起こしている気になってしまい、ストレスを感じる子供もいたのではないだろうか。

●ストーリーの軸

 子供たちに感情移入させるためには、感情移入しやすいキャラクターがより多くの時間登 場することが必要になる。特撮番組では(屋外撮影や制作費などの制約のためでもあると思うが)、幼稚園の送迎バスを襲ったり、子供を誘拐したり、人質にするなど、とにかく登場キャラクターに子供の姿が数多く見られる。アニメーションでは制作設定の都合上、毎回年齢層の低いゲストキャラクターを新たに登場させるより、レギュラー陣に配置しておいた方が楽であると思われる。この点で言うと、シローはまさに適役である。しかし、その年齢層の低いキャラク ターが主役でない場合、毎回メイン として活躍させることは不可能。そのために、他に有効な手法としてストーリーの導入や展開などで主だった活躍をさせるということが考えられたのではないだ ろうか。『グレートマジンガー』におけるシローの動向にもそれが当てはまるようだ。中でも一際目立ったものに、「人質」 「ゲストキャラクターとの絡み」がある。
 シローが人質になったのは、第1、3、23、37、42、43(44と2話完結話)話の6回(ちなみに第 3話は人質ではなく、スパイXに発信器を取り付けられ、研究所の位置を探られそうになった誘拐だが、人質に含むことにする)。人質が取られることにより、正義の側に危 機が訪れ、ストーリーに緊迫感がもたらされるという効果があるのは確かだが、視聴者の多くである子供たちと同年代のシローが人質になるということは、それとはまた違った側面があると思われる。それは、ボスのような年齢層が上のキャラクターが人質になるよりも、同世代が人質になる方が感情移入しやすいからだ。その方が、鉄也やグレートマジンガーに救出されるという気持ちを抱きやすいのではないだろうか。主人公に助けてもらったり、守ってもらったりすること も、番組の楽しみ方の1つに挙げられるだろう。
 しかし、毎回人質を出す話では、子供たちに飽きられてしまう。そこで、ストーリーに趣向を凝らし、ゲストキャラクターを絡ませる手法がとられたと思われる。ゲストキャラクターとの絡みにおいてシローが目立つというのは、毎回シローをメイ ンに据えることができないための代 替策と言えるのではないだろうか。第7話では、クラスメイトのほら吹き少年・信一とのケンカ、第9話では、車に轢かれそ うになったところを優しい戦闘獣クレオに助けられ、第15話では、ゴモドラーから出されたトカゲの襲撃に遭い、第32話では、鉄也のトラウマの原因である カナリアをハルナからもらうなど、 とくに冒頭におけるストーリーの導入役ということに目が行く。ストーリーの構成上、シローがメインではないのだが、話のきっかけとしてシローを起点に展開 するのである。自分たちと同年代のキャラクターが一番初めのシーンに登場するということは、子供たちの心を引き付ける最良の手法だと思われるが、いかがだ ろうか。
 さらに導入部以外でも、かなりインパクトの強い絡み方を見せている。第13話では、シローを庇って飛田博士が命を落と したり、第24話では、溺れている女性を助けたら、実はヤヌス侯爵の変身した姿だったりなど、良い意味でも悪い意味で も、実に多くの回でストーリーに貢献している。『グレートマジンガー』の構成上、シローは重要な鍵を握る存在と言えるのではないだろうか。

●ロボットジュニアの登場

 シローの活躍で特筆すべきことは、第25話から「ロボットジュニア」というロボットに搭乗し、戦闘に参加したこ とだ。
 ロボットジュニアは、兜剣造博士がシローのために作ったロボットである。戦闘用ではなく、ロボット操縦訓練用であるた め小型で、破壊力のある武器は搭載されていない。そして、そのデザインは、前作の『マジンガーZ』におけるボスボロット 同様、幼児雑誌「テレビマガジン」 (講談社)の一般公募で決定された。「テレビマガジン」という雑誌媒体を使用して宣伝効果も兼ねた、いわゆるタイアップ の1つである。自分の描いたロボッ トが、憧れのグレートマジンガーと一緒に活躍するかもしれない。そしてそれが、ブラウン管を通して流れる。公募に投稿す ることにより、作品作りに参加できるという喜びが得られるのである。子供たちにとって、それがどれほど胸躍ることだったかは、想像に難くないだろう。
 ロボットジュニアのデザインは、当時の子供たちの絶大なる支持を得たスポーツ「野球」を 基本にしている。 「ジェットキャップ」というヘルメット形態の飛行機が操縦機になっており、「アイアンバット」という野球のバットのような武器と、小型ミサイルながらも「ロボットジュニアミサイル」を搭載している。しかもジェットキャップは、マジンガーZやグレートマジンガーと同じく、ロボットと 頭部で合体。出撃時には、甲児の 「パイルダー・ゴー」、鉄也の「ブレーンコンドル・スイッチオン」を真似て、シローは「ジェットキャップ・ゴー」という 掛け声をかけ、グレートマジンガー同様、「ファイヤーオン」で合体するのである。マジンガーZとグレートマジンガー、そしてプロ野球選手にも憧れを抱いている子供たちの心を、非常にくすぐる設定になっている。
 そんなロボットジュニアを、自分たちと同じ子供であるシローが操縦し、救助活動や科学要 塞研究所の防衛など、正義のために働き、グレートマジンガーと行動を共にするのである。『グレートマジンガー』にチャンネルを合わせ、平和のために戦うヒーローやヒロインの姿に憧れる子供たちにとって、シローはどのような存在としてとらえられたのだろうか。「グレートマジンガーに乗ることは無理でも、 ロボットジュニアだったら……」。 「ロボットジュニアに乗って、グレートマジンガーを助けたい」。子供たちがそのような考えを抱くのは、もはや必然的と言えるだろう。
 初の搭乗型ロボット『マジンガーZ』が絶大な人気を誇ったのは、ロボットさえあれば誰でもヒーローになれるというヒー ロー願望を成就したためと思われる。しかも、リモコン操作ではなく、自分自身がロボットの中に入り込んで操縦するという 一体感さえある。変身ヒーローという限られた人物しかヒーローになることができない作品に比べ、より身近な存在と言えよう。しかもロボットジュニアの場合は、操縦者が視聴者の多くと同じ子供=シローである。複雑な操縦を要求されるロボットの操縦者になることは無理かもしれないが、ロボットジュニアの操縦者にはなれるという思考が浮かんでもおかしくないだろう。
 シローはロボットジュニアに搭乗し、グレートマジンガー、ビューナスA、ボスボロットと ともに戦闘シーンにも参加するようになったことで、話の展開の軸としての存在でありながら、子供たちの憧れの存在という面も併せ持ったのである。ロボットジュニアを操縦し、グレートマジンガーとともに戦うシローの姿は、視聴者である子供たち自身の姿なのだ。

 実写特撮優位の時代、『マジンガーZ』『グレートマジンガー』が、それらを凌駕する人気を博したことは既に述べた。その理由の1つとして、実写作品の制作費高騰のため、質が下がったことが挙げられている。しかし、特撮にはできないこと=アニメーションならではの 「スピード」「設定」「デザイン」などの技法を駆使し、特撮、アニメーションの区別なく、幼児向け番組やヒーロー番組の 制作という過去の積み重ねから培われてきた子供番組の定番、ヒーローものの王道、スポンサーとのタイアップなどを織り込みながら素晴らしい作品を作り、幼 年層を取り込もうとした制作スタッ フの姿勢と努力が、その1番の理由であったと思われる。
 非現実的な空想作品の中で、レギュラー・キャラクターに子供を配し、そのキャラクターを活躍させるという 『グレートマ ジンガー』ならではの、「兜シロー」という新たな策略。『グレートマジンガー』は剣鉄也、ひいてはグレートマジンガーが主人公ではあるが、見方によっては シローが主人公だったと言えるのではないだろうか。