オレはグレートマジ ンガー! 2

辰巳出版70年代TVアニメ検証第二弾「オレはグレートマジンガー!」掲載
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影の主役。それはボス、お前だ!
             神辺宏樹

 『マジンガーZ』と『グレートマジンガー』を通してのレギュラーであり、『UFOロボ グレンダイザー』ではゲスト出演まで果たしている、マジンガーシリーズの3バカトリオ「ボス・ムチャ・ヌケ」。この3人組のリーダーであるボスを語らずして、『グレートマジン ガー』を語ることはできないだろう。
 そこで、そんなマジンガーシリーズの影の主役であるボスに、焦点を当ててみたい。

『マジンガーZ』におけるボス

 ボスの初登場は、兜甲児の同級生として『マジンガーZ』第3話に遡る。弓さやかを巡る 甲児のライバルとして、同級生役で登場したのが最初だ。オートバイに乗り、ムチャ、ヌケという2人の子分をしたがえた不良といった感じで(初登場の3話では、ムチャ、ヌケ以外に子分が2人いたが……)、脇役よりもちょっと扱いが上のサブキャラクター的存在だった。それが、後半からはボスボロットというロボットを操縦するようにな り、甲児、さやかとともにドクターヘルの地下帝国と戦うという、まるでメインキャラクターさながらの活躍をするようになったのである。否、というより、完全にメインキャラクターの一人になってしまったのである。甲児を引き立たせる三枚目役であったボスが、マジンガー人気の一端を支えるまでの人気者になり、 物語に多大な影響を及ぼすキャラクターになってしまったのだ。
 『マジンガーZ』におけるボスの人気はすごさは、続編である『グレートマジンガー』に引 き続き登場したこ とでもおわか りだろう。しかし、普通、子供たちの人気を得るキャラクターといえば、格好いいヒーローやきれいなヒロイン、ギャグアニ メの主人公、可愛いデザインのアニマルキャラクター……と相場が決まっているものである。なにゆえ、ボスがそれほどまでの人気を誇ったのであろうか。

一服の清涼剤

 今ほど放送コードが厳しくなかった当時、テレビ番組にはストーリーや台詞、また視覚的な部分で、「子供には良くないのでは?」と取れるシーンが多く登場した。特にマジンガーシリーズは勧善懲悪ものなので、悪の悪たる行動や、正義と 悪との戦闘シーンが毎回欠かせない ため、敵の非道な行動や、戦闘シーン、敵の倒し方など、ロボットと言えど人間の形をしているため、どうしても残酷と映る シーンが登場してしまう。
 ストーリー的にも、マジンガーという正義の味方を際立たせるために、悪を徹底的に誇張して描いている。悪 の残虐非道ぶ りがひどくなればなるほど、正義の正当性が強調され、格好良く映るからである。そういった、残虐・非道・シリアスという中、子供にはちょっと険しすぎる側面を和らげるべく、ギャグメーカーとして笑いを取るために振る舞ってくれたボスの存在は、一服の清涼剤だった。小さな親切大きなお世話、何かあれば首を 突っ込み手を貸して、みんなに迷惑をかけ廻る。どんなに残酷で暴力的な場面であっても、ボスのおっちょこちょいな存在が それを和らげ、その場面をギャグにしてしまうのである。彼の明るさ、おかしさが、どれほどこの作品を助けてくれただろうか。

前代未聞のキャラクター

 昭和28年に日本でテレビ放送が始まり、その10年後の昭和38年に『鉄腕アトム』の放映が開始された。国産初のテレビ・アニメーションが始まったのである。それ以来、多くの作品が誕生し、数々のアニメ・キャラクターが登場した。三枚目キャラクターも数多く登場し たが、『マジンガーZ』が世に出るまで、勧善懲悪というシリアスな作品に、ボスのような傍若無人、否、破天荒なギャグ メーカーというのは、ギャグアニメに しか存在していなかった。細かいことを言えば、『鉄人28号』の大塚 署長、『レインボー戦隊ロビン』の教授 などはギャグメーカーに入るだろう。しかし、作品自体が、はたして『マジンガーZ』ほどシリアスだと言い切れるだろうか。また、仮に言い切れたとしても、これらのキャラクターは、ボスほど破天荒で、主人公を凌駕するような存在でありえただろうか。シリアス作品にギャグメーカーが存在すること自体稀であった当時、その中でも、ボスというキャラクターは、 極めて斬新な存在だったのではないだろうか。

 『マジンガーシリーズ』の基本は「勧善懲悪」。しかもこのシリーズはヒーローものでも ある。ヒーローものは、 ヒーローが「強い」「格好良い」といったように、ヒーローであるキャラクターの魅力をいかに際立たせるかが、人気を獲得する重要なポイントになる。そのため多くの作品は、その主人公であるヒーローを際立たせるために「残忍な敵キャラクター」「主人公のライバル的二枚目キャラクター」「主人公を引き立てる三 枚目キャラクター」「主人公の彼女的存在である美しいキャラクター」などの脇役を配している。
 ボスは、ルックスが悪く、おっちょこちょいでお節介、おまけにがさつで出しゃばりとい う、かなりヌケてる三枚目であ る。普通ならば「主人公を引き立てる三枚目キャラクター」となるはずであるが、マジンガーシリーズにおけるボスの存在 は、それだけではおさまらないのである。ギャグメーカーとして三枚目キャラクターであるにもかかわらず、主人公を引き立てることなど全くせずに、主人公と対等、否、それ以上であろうとするのである。マジンガーシリーズの最後の作品である『UFOロボ グレンダイザー』に至っては、宇門大介(=デューク・フ リード)を際立たせるために、『マジンガーZ』の主役であった兜甲児でさえ脇役に徹しているのに、ボスはそんなことにはかまいもせず、大介とも対等以上に接 しているのである。その上ボスは、 自分の身を投げ出して女の子や子供を守ったり、主人公を助けたりと、ヒーローの上を行くような活躍を時折見せるのであ る。このように主人公を凌駕するサブキャラクターが、今までのギャグメーカーに存在したであろうか。まさしく、前代未聞のキャラクターと言えるのではないだ ろうか。脇役である三枚目が、二枚目である主人公と対等に向き合い、ヒーローのような活躍を見せるのである。このような前代未聞のキャラクター性が、視聴者の共感を呼んだのではないだろう か。そして、その斬新なキャラクターであるボスの存在により、『マジンガーZ』の格好良さに面白さも加わるという、今までにないジャンルが形成されたのである。勧善懲悪というシリアスの中に同居するギャグ性が、『マジンガーZ』人気に火を付けたのではないだろうか。

コンプレックスから起こる対抗意識

 しつこいかもしれないが、はっきり言ってボスは「ルックスが悪い」。どうひいき目に見ても、愛嬌のある顔ではなく不細工である。スタイルだってもちろん良くない。デブで、足も短く、おまけに、でべそである。究極的に、女の子にもてないタイプとして描かれている。
 この「ルックスが悪い」というのは、人間が持つコンプレックスの中で、大きな割合を占めるものだ。特に、思春期という 華やかなりし時には尚更である。そして、女性ほどではないにしても、男性とて非常に悩む問題なのである。しかもボスは高校生。まさに多感な年頃だ。人に知られない欠点であれば、心の中では悩んでいても無理に明るく振る舞うことができるだろう。だが、肉体的という、隠すことのできない欠点では、なかなか難しい。それなのにボスは、外見的なコンプレックスなど全く気にしていないかのように、明るく豪快に振る舞っている。
 もしかするとボスは、普通の人とは違った美的感覚を持ち、自分を二枚目と思っているのでは。それとも、人間として非常にできており、コンプレックスをコンプレックスと思っていないか、外見よりも内面を重視と思っているのではないだろう か……。などと考えてみたりしたが、 どうしても矛盾点にぶつかってしまうのである。なぜなら、いつもボスが好きになる女性は美形ばかり。美的センスは抜群なのである。そして、その女性に良いところを見せようと姑息な手段を使って甲児や鉄也を出し抜こうとするのである。とても人間ができているとは言い難い。
 それを解明してくれたのが、『グレートマジンガー』第1話での、「ボス、惚れた腫れたは自分の顔を見て言うんだな。そ れが女にもてる顔か」「くそ〜、よくも俺の弱点を」という、ボスと鉄也の会話だった。ボスにとって自分の外見というのは、やはりコンプレックスだったのである。しかし、男の中の男的性格であるために、コンプレックスを気にするような弱い面を出すことができず、明るく振る舞っていたのである。そして、そのルックスの悪さのために、いろいろな面で損をしていると推察できる。ボスの行動を思い出して欲しい。そう、ボスは甲児や鉄也に劣らない活躍を時折しているのである。なのに、あまり報われていないのである。甲児や鉄也同様に、勇気・正義の心・人を思いやる気持ちという「ヒー ロー的精神」を持っているにもかかわらず、正当な評価をされていないのである。もし、ボスのルックスが良かったら……。だからこそ、二枚目である格好良い奴には負けたくないという強いライ バル心が起こり、甲児や鉄也、ひいては大介までにも、対等、又はそれ以上であろうと対抗するのではないだろうか。
 
ボスボロット

 『マジンガーZ』で子供たちから絶大な支持を受けたボスは、ついにロボットに搭乗することになる。 そのデザインは、幼児雑誌『テレビマガジン』誌上で募集され、一般ファンから公募したデザインによって作られたのである。『マジンガーZ』第48話から登場した「ボスボロット」が、それである。ロボットなのに頭の中から姿形までボスそっくり。したがって、「愛くるしい」という表現には かなり無理があるが、非常に愛嬌のあるキャラクターで人気を博したのである。
 このボスボロットの登場により、ボスの活躍の幅が更に広がることになり、ボスの人気はま さしく不動のもの になった。また、ボスボロットの方も、ボス人気の相乗効果により、ボスそっくりの人間臭さで人気を呼び、驚くべきことに『ジャンジャ ジャ〜ン ボスボロットだい』とい うタイトルで漫画にもなってしまったのである。アニメーション人気がもとで漫画化されたキャラクターというのは、後にも先にもボスボロットだけではないだ ろうか。
 『グレートマジンガー』でのボスボロットは、グレートマジンガーに対抗するために、ボスによって数々の改良を施され た。しかし、ギャグメーカーとしての運命ゆえ、悲しいかな、ほとんどが失敗に終わってしまうのである。しかし、失敗しな がらも徐々に様々なパワーアップを遂げ、ついには、念願の空を飛べるようにまでなったのである。失敗による面白さと、苦労が報われて飛べるようになったこ とで、子供たちの心をさらにがっちりとつかんだのである。

作品を繋ぐパイプ役

 『マジンガーZ』で培われたボスのキャラクターであるが、『グレートマジンガー』では 同じような性格をもった新キャラクターが登場せず、ボスが続けて出演している。ボスの人気にあやかったこともあるかもしれないが、『マジンガーZ』から『グレートマジンガー』への 変更による、視聴者の繋ぎ止めの意味もあるのではないだろうか。
 『マジンガーZ』最終回における、グレートマジンガーの劇的な登場は、確かに視聴者の胸 を熱くした。地下帝国がなくな りホッとしたのも束の間、機械獣・妖機械獣を上回る更なる強大な敵・戦闘獣が現れ、無敵と思っていたマジンガーZが為す術もなく危機に瀕してしまう。そこへ、どこからともなくグレートマジンガーが現れ、一瞬にして2体の敵を倒し、マジンガーZを助け出すのである。「主人公の交代劇」として、いまだに語り継がれている衝撃的な場面である。当時に与えたインパクトは、さぞかし凄まじかったものであろう。しかし、いかに衝撃的で興奮したとしても、それは単なる一過性のものである。番組タイトルが変わり、主人公が変わり、敵キャラクターも変わり、舞台まで変わってしまっては、いく ら続編と言えど別作品である。前作の人気がすごかっただけに、前作以上の工夫を凝らさなければ、視聴者が離れてしまうのは必至である。ただでさえ『グレー トマジンガー』は、『マジンガー Z』より主人公の年齢が高くなり、人間ドラマを重視した、年齢層の高い子供向けのストーリーになっている。年齢層の低い 子供が付いてこれるのだろうか。
 ところが、メインキャラクターに前作で存在感のあったキャラクターが一人でも登場してい れば、番組の雰囲気として、あ る種の統一感がもたらされるのである。その良い例として、『仮面ライダー』シリー ズにおける「おやっさん=立花藤兵衛」を挙げることができるだろう。主役である仮面ライダーが変わると、自然に主役を取り巻く環境も変わるため、サブキャラクターも一新される。しかし、主人公である仮面ライダーが尊敬し、頼りにしているおやっさんという大きな存在が引き続き登場するだけで、不思議なことに『仮面ライダー』シリーズという統一感が取れるのである。マジンガーシリーズにおけるボスの存在は、まさにそれなのである。特にボスの場合は、ギャグメーカーとして年齢層の低い子供たちから 圧倒的な支持を得ていた。そのボスが、台詞で甲児やさやかの名前を頻繁に出すのである。第1話の、「あ〜ぁ、寂しいな。さやかと甲児がいなくなって、喧嘩ができねぇわよ」。第11話の、 「シロー、しっかりやれ。俺たちはよ、アメリカで頑張っている兜甲児の親友として、シローを一人前の男にしてやる責任があるんだ」などである。視聴者はボ スの後ろに兜甲児を感じ、いつでもマジンガーZの存在を思い出すのである。『グレートマジンガー』には甲児の弟シローも出演し、ことある毎に、「甲児兄ちゃん……」という台詞を口にしているが、ボスの台詞は、そのシローよりも甲児の存在を感じさせてくれるのである。2つの作品を繋ぐパイプ役ならではである。

ジャンジャジャ〜ン!

 最後に、ボスを語る上で欠くことのできない存在として、大竹宏さんを忘 れることはできないだろう。 大竹さんは、マジンガーシリーズを通してボスの声を演じた役者さんである。ボスの口癖である語尾に付く言葉、今で言うおネエ言葉の 「〜わね」「〜わよ」、それに、ボスボロットの登場シーンで発せられる「ジャンジャジャ〜ン!」の基本形を作った人でもある。いずれも大竹さんのアドリブで あったという。それを脚本家の方も気に入り、台本にまで取り入れ、最終的にこのような形になったのだという。まさしく、ボスというキャラクターに命を吹き込んだ人なのである。ボス人気、ひいてはマジンガー人気の一端は、大竹さんによるものと言っても、過言ではないだろう。
 さて、大竹さんと言えば、『ママと遊ぼう! ピンポンパン』のカッパのカータン、『ひみつのアッコちゃん』の大将、 『パー マン』のパーマン2号(ブービー)、『キテレツ大百科』の初代ブタゴリラ(熊田薫)役でおなじみの大ベテランである。その中でもカッパのカータン役は、なんと言っても出色なのである。着ぐるみキャラクターであるカータンの中に入っていたのも、この大竹さんだったのはご存知だろうか。驚くべきことに、自らカータンの着ぐるみの中に入り、声をアテていたのである。
 この『ママと遊ぼう! ピンポンパン』は、当時の幼児教育番組の最たるもので、昭和41年から57年まで、実に16年 間という長きに渡って放映され、「ピンポンパン体操」「パジャママン」などの大ヒット曲を飛ばすなど、子供たちに親しまれた番組である。出演者の世代交代 が数あった中で、「新平ちゃん」と、大竹さんの演じた「カッパのカータン」だけが、放映開始から終了まで頑張ったのである。
 『グレートマジンガー』の収録は、毎回この『ママと遊ぼう! ピンポンパン』の収録の後だったため、大竹さんはとにかく大変だったとか。ボスが子供たちの心をつかみ、あれほどまでの人気を得ることができたのは、この汗だくになって子供たちとたわむれた、「カッパのカータン」にあったのかもしれない……。