オレはグレートマジンガー! 1

辰巳出版70年代 TVアニメ検証第二弾「オレはグレートマジンガー!」掲載
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グレートマジンガーは『グレート』であるのか!?
                    神辺宏樹

 「グレート」。この言葉を辞書で引くと、「大きな、偉大な、素晴らしい」などとある。 つまり、『グレートマジンガー』を直訳 すると、「『マジンガーZ』のグレート版」ということになるのである。しかし、作品にしろ製品にしろ、世に後から出た方が優れているのが常である。日々、日進月歩を繰り返しているコンピュータを例に取れば良くわかるが、後機種の方が優れていて価格も低い。その論理をあてはめると『グレートマジンガー』の方が優れていることになる。
 はたして、『グレートマジンガー』は『マジンガーZ』より、いかに「グレート」であるのか。それを検証したいと思う。

『グレートマジンガー』と『マジンガーZ』のロボット比較!

 まずは、主役メカである2体のロボットについて。
 大きさを比べてみると、グレートマジンガーは全長25m、体重32t。片やマジンガーZは、全長18m、体重20tである。グレートマジンガーの方が、全長にして7m、体重にして12tと、かなりグレートであることがわかる。
 次に、材質に目を向けてみると、グレートマジンガーは、マジンガーZが使用している超合金Zを更に精製し た「超合金 ニューZ」で作られている。詳しく述べると、兜甲児の祖父・兜十蔵博士が発見した、新元素であるジャパニウムから精製された「超合金Z」を、更に精製したものである。さすがに「ニュー」と冠されているだけあって、超合金ニューZの方が材質は優れている。それは、グレートマ ジンガーの初登場である『マジンガーZ』最終回で語られている。マジンガーZの超合金Zは、戦闘獣ビラニアスの鱗により腐食してしまうが、グレートマジンガーの超合金ニューZは、その鱗を弾き飛ばしているのである。ここだけでも超合金ニューZのすごさがわかるというものだが、更にそれだけでなく、剣鉄也 に「今までのマジンガーZとは、 ちょいと出来が違うぜ」と言わしめ、そのことに反論するシローを「グレートマジンガーは超合金ニューZでできているん だ」という鉄也の言葉で感心・納得さ せてしまうのである。それほど、「超合金ニューZ」は「超合金Z」より優れているのである。
 続いて、性能面(戦闘能力)を見てみたい。グレートマジンガーは、さすがにマジンガーZ をもとに開発されただけあっ て、マジンガーZの性能を更に向上させていると思われる。そこで、マジンガーZの性能を改良したであろうと思われるも の、および、グレートマジンガーにはない性能、グレートマジンガーのみに装備されたものの中から、よく使用されたものを挙げてみたい。
 マジンガーZの性能を高めたと思われるものには、「ブレストバーン」「アトミックパン チ」「ドリルプレッシャーパンチ」「ネーブルミサイル」がある。「ブレストバーン」は「ブレストファイヤー」をかなり進化させたもので、熱線だけでな く、マイナス回路をオンにして冷線を発射することも可能である。しかも、ブレストバーンは取り外しが可能で、「グレートブーメラン」という飛び道具として 使用することもできる。「アトミックパンチ」は「ロケットパンチ」を改良したもので、ロケット噴射で回転しながら腕が飛ぶために、威力が何倍にもなる。ロケットパンチは両側面から刃が出て 「アイアンカッター」となるが、アトミックパンチも「プレッシャーカッター」という4つの刃が側面から出て「ドリルプレッシャーパンチ」となる。「ネーブルミサイル」は、名前の通りネーブル(おへそ)から発射されるミサイルで、マジンガーZの腹部から発射される「ミサイルパンチ」にあたる。残念ながら、どちらのミサイルの方が威力が上か定かではない。
 グレートマジンガーには備わっていない性能としては、「光子力ビーム」「ルストハリケーン」がある。「光子力ビーム」 は、300万ボルトの電撃を使って攻撃する「サンダーブレーク」にあたると思われる。光子力ビームは火薬10トン分のエ ネルギーを持つらしいが、どちらの威力が上かは判断できない。「ルストハリケーン」は「グレートタイフーン」にあたると思われるのだが、金属を腐食させる風を起こすルストハリケーンに対して、グレートタイフーンはルストハリケーンより強力な風速150mの強風を吹き出すののみである。したがって、マジンガーZのルストハリケーンの方が、威力は上であろう。
 グレートマジンガーのみにある装備は、「マジンガーブレード」「スクランブルダッシュ」 である。マジンガーブレードは、両足に内蔵された両刃の剣で、超合金ニューZ製。この剣のおかげで、肉弾戦などでかなりの成果をあげている。そして、最もパワーアップされた性能が、飛行能力の「スクランブルダッシュ」である。背中に光子力ロケットエンジンを2基搭載した翼を内蔵し、単独で自由に空を飛ぶことができる。最高速度はマッハ4で、最高飛行高度は5万m。超合金ニューZ製だが、折り畳み式であるため強度が弱いのか、マジンガーZの「スクランダーカッター」のように容易に敵を切り裂くことができない。そのためか、後に強化パーツとして、敵に体当たりをさせることで強力な武器にもなる「グレートブースター」が出た。残念ながら、 これらの飛行能力はマジンガーZ単独にはない。マジンガーZが空を飛ぶためには、「ジェットスクランダー」という空飛ぶ翼と合体しなければならず、しかも最高飛行速度はマッハ3で、最高飛行高度は2万mなのである。

 以上の結果、多くの点においてグレートマジンガーがマジンガーZを超える能力を備えていると思われる。それを裏付ける事実は、劇場版『UFOロボ グレンダイザー対グレートマジンガー』で語られている。バレンドス親衛隊長に捕まった甲児の、「超合金で作られたスゴイ奴だった。マジンガーZより更に性能はアップされ、闇の帝王もとうとう引っ込まざるを得なかった」という台詞がそれである。マジンガーZの操縦者である兜甲児自らが、グレートマジンガーの性能の方がグレートだと認めているのである。

『科学要塞研究所』VS『光子力研究所』

 主役メカの次は、基地として活躍する研究所の比較である。
 『グレートマジンガー』の基地は、神奈川県は相模湾に浮かぶ「科学要塞研究所」である。 ミケーネ帝国に対抗すべく建設されたため、「光子砲」「バリヤー発生装置」など、防御用に多くの兵器が初めから装備されていた。中でも特筆すべき性能は、基地全体が船のように移動したり、海底に潜水することが可能なことである。海という地形を利用した潜水は、基地である科学要塞研究所の場所をミケーネ帝国に突き止められないようにしたり、敵の攻撃の衝撃を緩和したりと、かなりの活躍を見せてくれた。

 さて、ミケーネ帝国との戦いを目的として作られた「科学要塞研究所」と、光子力の平和利用を目的とした「光子力研究所」とを比較するというのは、かなりの無理があると思われる。お互い、自ら戦いを仕掛けたりせず、敵の攻撃から身を守るために戦う専守防衛傾向にあるが、防衛面の装備や戦闘能力などでは、明らかに科学要塞研究所の方が上になるからだ。
 そこで、同時期に存在している2つの研究所の比較として科学力に着目し、しかも、研究所の防御態勢の1つである探知測 定能力に絞ってみた。
 『マジンガーZ』の「光子力研究所」は、静岡県は富士山麓にある。2つの研究所の所在地 を地図上で確かめてみると、箱根を挟んだ反対側にあるのがわかるはずである。正確な距離はわからないが、『マジンガーZ』の最終回で、怪我をした甲児にみんなが会いに行く場面や、『グレートマジンガー』第54話で、甲児と弓博士が、科学要塞研究所で行われる甲児の歓迎パーティーに向かうくだりから、そんなに離れていないことが推察できる。しかし、そのような近い距離にありながら、光子力研究所は科学要塞研究所の存在を認識していなかったのである。仮に、普通の施設として認識していたとしても、科学要塞研究所の潜水・浮上訓練、グレートマジンガーやビューナスAの発進訓練などが幾度となく繰り返されたはずである。普通の施設ではないという疑いの目を向けても、おかしくないと思うのだが……。光子力研究所のレーダーは、科学要塞研究所側の施設を探知できないほど精度の低いものなのか。それとも、科学要塞研究所側が、レーダーに探知されないほどの科学力を持っているのか。とにかく、いずれにしても科学要塞研究所がグレートであることには変わりがないだろう。

『ミケーネ帝国』VS『地下帝国』

 強大な敵を相手にするほどグレートの証。続いては、敵側の比較である。
 『グレートマジンガー』の敵は、約3000年前にエーゲ海のバードス島を中心に栄えていた「ミケーネ帝国」である。この「ミケーネ帝国」は、『マジンガーZ』においてその名が登場する「ミケーネ帝国」と同一のもの。つまりドクターヘルは、時を経て遺跡として出土したミケーネ帝国の巨人兵に手を加え、機械獣としたのである。このことは、ミケーネ帝国が三千年も前に、巨人兵を造る技術を持っていた証であろう。更に『マジンガーZ』で、機械獣を遥かに凌ぐパワーを持って登場した妖機械獣は、先遣部隊として地上を偵察に来ていた、ミケーネ帝国 諜報軍のゴーゴン大公から与えられ たものである。その他にも、『マジンガーZ』第91話で最期を遂げた地下帝国総帥ドクターヘルを、『グレートマジンガー』第36話で地獄大元帥として甦らせたのも、ミケーネ帝国なのである。これだけでも、科学力の差は、明らかにミケーネ帝国の方が上となる。
 続いて規模であるが、これは比べるまでもないだろう。ミケーネ帝国は、地底の広大な場所に存在する一大地下帝国で、暗黒大将軍をはじめ12人の指揮官の率いる七つの軍団と諜報軍があり、ミケーネ帝国が滅ぼしたミケーネ王国の人民を改造し て、ミケーネスや戦闘兵士として使用している。対する地下帝国は、エーゲ海に浮かぶ小島を拠点とする、一科学者の個人的組織であり、あしゅら男爵はじめ3人の指揮官の元、サイボーグ兵士である鉄仮面軍団、鉄十字軍団が戦闘兵である。

 以上のことから、ミケーネ帝国は地下帝国を遙かに凌ぐ力を持つ、グレートな敵と判断することができる。しかも、もっと恐ろしいことに、ミケーネ帝国は『グレートマジンガー』で一応の終末を迎えたが、支配者である闇の帝王の行方は、 定かでないのである。いつまた復活するかもしれない、謎の生命体「闇の帝王」。これほどグレートな敵は、いないのではないだろうか。

放送データでの比較

 『マジンガーZ』は、昭和47年12月3日〜昭和49年9月1日にかけて、全92話が放映された。 最低視聴率は第37話の14.8%で、最高視聴率は第68話の30.4%。平均視聴率は22.1%。視聴率10%代の本数は31本である。
 対する『グレートマジンガー』は、昭和49年9月8日〜昭和50年9月28日にかけて、 全56話が放映された。最低視聴率は第46話の17.2%で、最高視聴率は、最終回である第56話の27.2%。平均視聴率は22.8%。視聴率10%代の本数は6本である。
 以上のようなデータを用い、「テレビ番組」という側面から比較してみたい。
 単純に数字だけを比較すると、「放映回数」では36本、「最高視聴率」では3.2%『マジンガーZ』の方が上回り、 「最低視聴率」では2.4%、「平均視聴率」では0.7%、「視聴率10%代の本数」では25本『グレートマジンガー』 が上回っている。
 では、この数字から、どのようなことが分析できるであろうか。

 最低視聴率と最高視聴率の数字に目を向けてもらいたい。最低視聴率と最高視聴率の差を見ると、『グレートマジンガー』では約10%なのに対して、『マジンガーZ』では約16%もある。この最低視聴率と最高視聴率の差が大きいということは、各話の出来不出来に差があったという捉え方ができる。したがって『マジンガーZ』は、最高視聴率30.4%という強烈に視聴者を引き付ける面白 い回があったかと思うと、最低視聴 率14.8%という、そうでもない回もあったり、コンスタントに視聴者を引き止めることができなかった作品と言えるので はないだろうか。
 対する『グレートマジンガー』は、『マジンガーZ』ほど強烈に視聴者を引き付ける回はなかったかもしれないが、視聴者 がコンスタントに見続ける、ある一定の水準を保ち続けた作品だったと言えるであろう。

 次に、平均視聴率に目を移してもらいたい。『グレートマジンガー』が『マジンガーZ』 より、わずかに0.7%上回っているのがわかるであろう。平均視聴率の差を単純に比較しただけでは、『グレートマジンガー』の方が上ということになる。ところが、放映回数や「視聴率10%代」のデータを見ると、単純に『グレートマジンガー』の方が上だと断定できない点が浮かび上がるのである。
 『マジンガーZ』は放映回数にして36本も『グレートマジンガー』より多い。36本とは、業界用語で3 クール弱、つまり9ヶ月弱も『グレートマジンガー』より放映期間が長いのである。4クール以内の作品が多いテレビ番組の中で、いかに『マジンガーZ』の人気がすごかった かがわかるというものだ。
 更に「視聴率10%代の本数」を見てほしい。わかりやすくするために、放映回数に占める割合を算出してみると、『マジ ンガーZ』は92本中31本ということで、33.6%が視聴率10%代。対する『グレートマジンガー』は56本中6本ということで、10.7%が視聴率 10%代ということになる。『マジンガーZ』は、『グレートマジンガー』の3倍強も視聴率が10%代なのである。それなのに、平均視聴率における差が、わずか0.7%しかないということは、『マジンガーZ』が、いかに高視聴率の回が多かったかを物語っている証拠であろう。

時代の風潮

 以上からの結果、『グレートマジンガー』は、主役ロボット・基地・敵などが、かなりグレードアップされ、作品自体の比較では『マジンガーZ』より「グレート」で間違いないのである。しかし、テレビ番組として世に与えた影響は『マジンガーZ』の方がグレートだったのである。『マジンガーZ』放映当初は、国民の60%以上の支持を受けた田中角栄が首相に就任し、「日本列島改造論」を打ち出し、高度経済成長路線の継続を はかったばかり。世は、行け行けムードだった。初の人間搭乗式巨大ロボット作品であり、主人公・兜甲児の明るく直情で、 典型的なヒーローという性格、そし て巨大ロボット・マジンガーZが、悪のロボットをなぎ倒す姿。これら全てが時代にマッチしていたのである。ところが、昭和48年10月6日。この日に勃発 した第四次中東戦争を機に起こった石油危機で、世界経済が混乱に陥り、日本の高度成長にも歯止めがかかってしまった。そ ういった社会情勢や『マジンガー Z』における「暴力性」「言葉の乱れ」といったPTAの苦情を考慮し、続編である『グレートマジンガー』では、主人公は 悩みを持った影のある性格になり、 戦闘場所は海や空が多くなり、市街地の破壊というロボットアニメの醍醐味である視覚的に楽しめるシーンが少なくなるなど、『マジンガーZ』よりおとなしく なってしまったのである。
 平均視聴率22.8%という数字は、極めて立派なものである。現在では、視聴率が20%以上もあれば、全番組中のベスト10に入ってしまう。『マジンガーZ』よりもグレートな設定の作品だっただけに、もっと設定を生かしていたら……。時代の波に翻弄された、悲しい作品と言えるのではないだろうか。